近年、多くの企業がオンプレミス(オンプレ)からクラウドへの移行、いわゆる”クラウドリフト”を進めています。これにより、サーバー運用コストの削減や柔軟なスケーラビリティを手に入れた企業も多いでしょう。しかし、果たしてクラウドに移行しただけで、DXは実現したと言えるのか?
オンプレ脱却後に求められる“本当のDX”の姿について考えてみました。
クラウドリフトの限界とは?
クラウドリフトとは、既存のオンプレミスシステムを、ほぼそのままクラウドに移行するアプローチです。これは「Lift & Shift」とも呼ばれ、初期コストを抑えながら、物理的なハードウェア管理からの脱却を図る手法として一般的になっています。
しかし、この移行方式には限界があります。
- 業務プロセス自体は変わっていない
- システム設計がクラウドネイティブでないため、運用が非効率
- 単なるコスト置き換えにとどまり、付加価値が生まれにくい
つまり、クラウドに移行しても「業務の仕組み」や「価値提供の形」が変わっていなければ、DXとは言えないのです。
本当のDXとは何か?
真のデジタルトランスフォーメーションとは、単なるITインフラの刷新ではなく、企業のビジネスモデルや業務プロセスをデジタル技術によって根本的に再構築することを意味します。
具体的には:
- 顧客体験(CX)の向上
- 業務プロセスの自動化と最適化
- データドリブンな意思決定
- 働き方の柔軟性と生産性の向上
これらを実現するには、クラウドへの移行だけでなく、業務フローの見直しや組織文化の変革も必要になります。
クラウドリフト後に企業が取り組むべきこと
クラウドに移行した後、次のステップとして以下のような取り組みが求められます。
1. クラウドネイティブアーキテクチャへの最適化
Lift & Shiftでは非効率だった部分を、クラウドネイティブな設計(マイクロサービス、サーバーレス、IaCなど)に最適化することで、可用性・拡張性・保守性を高めます。
2. 業務プロセスの見直しとBPR(業務改革)
既存の業務手順を見直し、RPAやSaaSを活用した効率化を図ります。たとえば、紙ベースの申請業務を自動化し、承認フローをデジタル化するなど。
3. データ活用基盤の整備
各システムから取得したデータをDWHやBIツールに集約し、経営判断や営業戦略に活用できる仕組みを作ることがDX成功の鍵となります。
4. 組織と人材のリスキリング
技術だけでなく、それを活かせる人材の育成が欠かせません。業務部門とIT部門の壁を越えたチーム編成や、社員のデジタルスキル向上が重要です。
成功事例に見る“DXのその先”
たとえば、ある製造業の企業は、クラウドリフト後にIoTとBIツールを組み合わせて工場の稼働率を可視化。そこからボトルネックを特定し、自動調整機能を導入することで、年間数千万円のコスト削減につなげました。
また、小売業では、Salesforceを活用して顧客データを統合し、パーソナライズされた接客をオンラインと店舗で実現。CXの向上によってリピート率が改善しています。
このように、クラウド移行はあくまでスタートライン。そこからいかに自社独自の価値を創出するかが問われる時代に入っています。
まとめ:クラウドリフトの次に進むべきDXの姿
クラウドリフトだけでは、企業の本質的な変革には届きません。本当のDXとは、クラウドを活かして業務やビジネスモデルそのものを再構築すること。
もしあなたの会社が「クラウドに移したけど、現場は何も変わっていない」と感じているなら、それはまだ道半ば、DXの入り口に立ったところです。
今こそ、クラウドを起点に「業務プロセスの見直し」「データ活用」「人材育成」をセットで進め、真のデジタル変革を実現していきましょう。